日曜コラム 錦織圭を育てた人-2
<前日のブログに続きます>
NBTA(ニックボロテリーテニスアカデミー)の代表、ニックボロテリーさんは、
生粋のテニスコーチであり、その視点はとても鋭く、世界のトッププレーヤーを
生み出せる能力を持っていました。
実際、私が彼と品川プリンスホテルでテニス留学を希望する生徒のお父さんを
伴って会った時、ニックさんとお父さんの会話は今でも覚えています。
―私の娘をテニスプレーヤーにしたいのですが、そちらで引き受けてくれますか。
「引き受けるかどうかの前に、あなたのお子さんに対する教育方針を伺いたい。あなたはなぜ、お子さんにテニスをさせたいのですか。」
―高校までしっかりとテニスを身につけて、大学はテニスでスカラシップを取得してテニスを続けたいと思っています。
「高校までで実績を残すことが出来れば、大学に奨学金を得て、テニスを続けることは可能です」
―それが私の望むことです。
ニックさんはあえて、突っ込んだ質問はせず、大学での奨学金の取得が彼の経験上かなり有力であることを説明したにとどめました。
NBTAでは、有能なジュニアを育成しています。そこでは多くの小学生、
中学生がテニスを中心とした学校生活をおくっています。
NBTAに通う子どもたちは誰もがテニスで成功したいと思っています。
そのような生徒がアメリカの各地から、そしてさらには世界中から集まってきます。
それなりにテニスの才能があり、キラキラ輝いた目をした子どもたちを前にして、
ニックさんは、語るそうです。
「君たちの中で、プロとして残っていけるのは、3パーセントくらいだ。それほど、テニスでプロとしてやっていくことは難しい。私が君たちに望むことは、ワールドクラスパーソンだ。ここにいるすべての生徒が、テニスを通じて自分を知り、鍛え、成長していってほしい。やがて、君たちは大学に行き、社会に出る。その時に、このアカデミーで学んだことを決して忘れないでほしい。人生のすべてを勝利で終えることなどできはしない。むしろ、失敗があってこそ、そこから学んで欲しい。そうすることで君たちの視野は世界に広がっていくだろう。
ワールドクラスパーソンになってほしい。テニスでワールドランクに入るのと同じように、人としてワールドクラスの人格を持ってほしい」
ニックさんは、テニスというスポーツをこよなく愛する哲学者と私は思います。
彼は、とうに喜寿を越えていますが、今でも自らコートに立ち、
10代の子どもたちを指導しています。
錦織圭選手のあのとてつもないパワーと勝利への動物的な執着心は、
ニックさんのテニス哲学の集大成と言えるのでしょう。
日本人としてのテニス4大大会のファイナリストは史上初です。
そして、アジア国籍の選手のUSオープンファイナリストも彼だけです。
ニックさんには米寿を越えてもコートに立ってもらいたいと思います。