高校生の留学体験 - お母さんの底力(池田章子さん)
章子さんの一年留学のきっかけは留学前年、一か月間のアメリカでのホームステイでした。良いところばかりではない、というよりもつらいことのほうが多い一年間留学になることは、旅立ちの時には考えてもみなかったと彼女は回想しています。
留学スタート、英語力不足でつまずき、パニック状態。三ヶ月後、夜中の三時ころまで勉強してやっとどうにかクラスに追いつくという状態に、自分のふがいなさ、憤りさえも感じたそうです。英語を聞くことに慣れても、こんどは言いたいことが言えずに語学力のなさから解放されません。
バスケットボールチームに参加することで、語学力が飛躍的に伸び、「友だちと話すことが楽しくてしょうがない」という状況に章子さんはホストファミリーに最上級の感謝と尊敬の念を持つに至ります。
勉強しすぎの彼女を見かねて、ホストマザーは「がんばることはとても大切なこと、でも、できないということを認める勇気も必要よ」と章子さんにアドバイスをしたそうです。「自分自身で目標を決めて、達成できたら自分をほめてあげなさい」とのアドバイスに章子さんは救われます。彼女は人の意見をすなおに聞き、それを受入れ、実行できる能力を持っていたと言えると思います。
さて、努力家であり、勤勉さも相当なレベルの章子さんですが、その彼女を根底から支えたのは、日本のお母さんではないかと私は思います。章子さんのナチュラルマザー(実母:ホストマザーと対比して使われるようです)は、何度も本人やホストファミリーにお手紙を出したそうです。eメールが行き渡っていた時代ですが、あえて紙の手紙を送るというお母さんの努力は、章子さんのこころの落ち着きにどれだけ寄与したことでしょう。また、ホストマザーの章子さんのお母さんのからの手紙にどれだけ母親意識を共感したことでしょう。お母さんの底力は、見えないところで章子さん、そして彼女の周りの人を感化したと思います。
私は、今までいろいろなお母さんを見てきました。一人ひとりが個性的な人です。英語のできるひともたまにはいますが、八割ほどのお母さんは英語が堪能ではありません。ご自身が仕事をもっている人が半分以上です。お母さんはみな忙しく、家事、お父さんの世話、そして子どもの世話を黙々とやっています。そして、留学したわが子への気遣いも、当然のことながら日々の生活のなかでとても優先順位の高いことです。母は強いのです。
留学を終えた章子さんは、「明るくなった」と良く言われるそうです。そうでないとやっていけない、そんなたくましさを彼女は留学で獲得しました。苦労から学んだ人生観は彼女の社会人のベースとなると思います。自分に起こることを受け入れることと、周囲の人に感謝の気持を持つに至る章子さんですが、お母さんへの感謝の気持ちが一番大きいと思います。
(*注:池田章子さんの手記は成功する留学、小・中・高生の留学2001-2002、110ページに掲載されています。)