高校生の留学体験 - 生物のクラス(成田裕明君)
「僕に困惑する先生の表情を目にすることが多かったのは事実だ」と自分の留学生活の始まりを回想する成田裕明君ですが、留学当初は相当に苦労したと思います。学習面か、あるいは勝手の違う学校生活において、彼は問題児扱いされることもたびたびあったそうです。
アメリカに留学する生徒にとって、学習面でみな一応に苦労するのが生物とアメリカ史です。この二つの科目は高校卒業のための必須科目です。アメリカ史の難しさは、日本とは全く違うディスカッション形式の授業と、歴史事実知識の確認のみならず、自分の意見を求められるテストにあると思います。
また、生物の難しさは専門用語がたくさん出てくること、内容説明の英語の複雑さであると思います。物理系の分野であれば、数学知識でカバーできる範囲が多いでしょうが、生物においては、たとえば光合成という一つのテーマを学ぶにしても、細胞組織、葉緑素やその働きなど、新出単語と説明のための長文は、日本からの留学生にとって相当の学習負担を強いられるでしょう。
裕明君は、生物クラスを取ります。あえて取ったのではなく、同年代の現地生徒と同じようにこのクラスを取らされたわけです。彼は、先生からクラス替えを勧められます。辞書にも載っていないような単語が当たり前、先生への質問にも限界があります。通常であれば、留学生はすんなりと先生の「クラス替え」アドバイスに従うところです。しかし、彼の答えは「NO」でした。「(留学生という)その立場に甘えていたら、いつまでたっても周囲の目も変わらないとわかっていた」と彼はいいます。そして、自分自身を変えるためにこのクラスに残ります。
彼の信念は周囲を動かしたようです。彼の決断はチャレンジングではあるが、その態度はacceptable(受け入れられる)であると生物の先生も思ったことでしょう。当然のことながら、ホストファミリーのバックアップ、クラスメートの協力もあったでしょう。彼は生物のクラスを無事にパスします。
ネバーギブアップ精神が旺盛な彼の留学生活の後半は、「不自由さ」がひとつ一つ消えていったそうです。そして、彼の意識は徐々に、「現地に住む一人の住人として毎日を過ごそう」となり、そのための努力を重ねた結果、生活が少しずつ楽になっていきます。
「とにかく当たって砕けよ、これが留学に僕が取り続けた姿勢だ」という彼の言葉は、誇張ではないと思います。「もし、砕けてしまっても、また、ひとつ成長した自分の作り上げることができたらそれでいい」十代半ばの彼の人生哲学に私は、留学のもつ自己啓発のポテンシャルを確信し、体験者の将来に「希望」を感じます。
(*注:成田裕明君の手記は成功する留学、小・中・高生の留学2001-2002、109ページに掲載されています。)