高校生の留学体験 ― 自分らしい自分とは(*阿部麻理恵さんの手記)
「なぜ留学したいの?」という質問の解答はとても類型的です。「英語力を身につけたい、異文化体験をしたい」この二つ以外の理由を私はあまり聞いたことがありません。阿部さんは、留学を終えてから「留学したかった本当の理由」に辿りつたようです。
「自分らしい自分を探すため」、それが彼女の留学への動機でした。私立中高一貫校での日常は彼女にとって、安定した生活が保証されていました。彼女はいわゆる仲良しグループの一員であり、そこにはおなじみの顔ぶれがあり、安心であり、危険性もなく、わざわざ新しい友だちを作る必要もない。すなわち、「みんなとおなじようなことをすれば平和」であったわけです。
そんな「超」安定した10代半ばの生活から彼女はあえて決別しました。大勢のなかから飛び出して、のびのびとした自分を追求したいと思ったわけです。今までの日常から1年間姿を消すことになったわけですが、彼女はそれが自分を変えるチャンスととらえます。
阿部さんのチャレンジは、「人に期待する」あるいは、「流れに身を任せる」という受け身の姿勢から素早く抜け出し、自ら積極的に相手に話しかける態勢を創り出します。世界のどこでも、ティーンエイジャーの行動は似ていると思います。彼女の留学先でも、日本のように、友だちグループはすでに固定されていて、よそ者はなかなか仲間の輪の中に入って行けません。
そこで、どうしたら自分の意思は貫けるかと考え、行動することが留学そのものと私は思います。
彼女は、自ら相手に話しかけることで、友だちがドンドン増えていったことを、
「不思議なこと」とあえて言っていますが、彼女の行動の結果は不思議なことではありません。むしろ当然の帰結でしょう。しかし、友だちがドンドン増えることが、神がかり的に思えることが、それまで彼女が背負ってきた日本の学校社会のあり方を象徴しているように私は思います。
阿部さんが発見した自分らしさとは、新しいもの、自分の本当に好きなものごとに、すなおに興味を持って追求するということではないかと思います。
99年8月から2000年6月までの留学を終えた彼女は、学校の方針により、もとの学年に復学します。1学年下がるために心配していた友だちづくりも全く問題なかったそうです。帰国して友だちから「変わったね」と言われ、彼女は落ち込むのではなく、とても嬉しかったそうです。
あえて安定した日常から飛び出し、友だちゼロ、実践的英語力ほぼゼロ、既存知識少々、親の物理的サポートゼロという陸の孤島での1年間が、彼女にもたらした自分自身へのプライドと自己選択、自己責任の精神は、日本の現行の教育システムでは買えない生涯の財産になると思います。
(*注:阿部麻理恵さんの手記は成功する留学、小・中・高生の留学2001-2002、104ページに掲載されています。)