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世の中が開ける瞬間 - ある禅僧からのお話

横浜に善光寺というお寺があります。
そのお寺のさきの方丈さんは、黒田武志というお坊さんでした。
黒田先生のお子さんの留学相談をさせていただいたご縁で
親しくさせていただきました。
大変残念なことに、黒田先生は数年前に他界されたのですが、
この先生は私にとって、夢を実現させてくれる力を
持った不思議な方でした。
東洋哲学者の中村元さんに私が会いたいというと、
本当に会わせてくださいました。
自ら、留学僧育英会を立ち上げ、アジアの国々に今でも
日本から若き僧を派遣しておられます。
善光寺の法事に招かれた時、お檀家さんの多さに圧倒されました。
とてもお忙しい方だっと思いますが、時には食事に誘っていただき、
いろいろな方をご紹介いただきました。
その黒田先生が、私に熱く語ってくれた彼の「悟りの瞬間」は、
彼が修行僧として、托鉢を行っている時のことでした。
辛く、苦しく、風雪にも耐えるこの修行を、若き禅師は
時に物理的辛さに精神が茫洋とし、時に自分を叱咤し、
仏の慈悲を信じて、世間とあいまみえていたそうです。
いくら熱心に般若心経を唱えても、人々はわれ関せずで、通過するばかり。
精神もへとへととなり、肉体も弱り、雨にもたたられて、
「もうだめだ」となかば修行もあきらめかけた時、雨がやみ、
雲が切れて、その間から紅い太陽の光が地上に差し込んできたそうです。
それと符合するように、笑顔の女子高生と思しき一団が、
彼の鉢にじゃらじゃらと次から次に托鉢をしたそうです。
「斉藤君、こりゃ私にとりすごい経験だ。あの光は仏さまからのものだと思ったよ。そして、高校生が皆、笑顔なんだ。彼らはまさに菩薩だったよ。仏の光と菩薩、それが一瞬にして、私に向ってきた。私が自分の使命を感じたのはあの瞬間だったな」
黒田先生は大変ポジティブで、オープンな性格の方でした。
何をするにも悪くは考えず、否定もせず、しかし、はっきりとご自分の考えを
主張され、意見はあくまでも隠さず率直に相手に伝えられていました。
先生に起こった感動的なことを、私は最近になってようやく
理解するようになりました。
彼にとっては、国内でしたが将に異文化体験ともいえる出
来事だったと思うのです。
そして、私自身も個人的な異文化の体験を通じ、そこで感化されて、
仕事として異文化に取り組み、結果的に若い人たちに異文化を
経験してもらっています。
感動という視点においては、人の地位も名誉も関係ありません。
黒田先生からいただいた「お話」の続きは、私が世話する若い人たちが、
自然と海外で作ってくれると信じています。

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