叱ることの難しさ
三月下旬にアメリカのボーディングスクールは春休みを迎えます。
日本の春休みよりも長く、三週間弱の休暇となります。
十一月下旬の感謝祭、十二月下旬の冬休み、そして三月の春休み、
私がお世話している留学生のほとんどが帰国します。
春休みが終了すると五月下旬から六月上旬の学年終了に向けて、
期末試験(ファイナルイクザム)準備に追われるのが、
留学生の一年です。
この時期、時々学校から生徒たちの成績状況などで、
担当者から直接メールが届くことがあります。これは要注意です。
特に留学初年度は、留学生たちは先生とのコミュニケーションが
不慣れなうえに、英語力の問題もあり、自分の真意を伝えることや、
相手の真意を理解することでの誤解や行き違いが起こります。
故に、アドバイザーや留学生を担当する先生などから、
警告あるいは、私の意見を聞きたいなどのメールが舞い込むわけです。
留学生の立場にしてみると、学業の問題、生活の問題など、
先生やアドバイザーに相談し、解決できなければ、メンターなどと呼ばれる
自分を担当してくれる先輩に相談すれば良いのですが、
初年度の言葉と文化の壁はけっこう厚く、悩み相談はおおよそ
お母さんに集中すると言っていいと思います。
一月上旬に後期が始まり、生徒も生活と言葉に慣れつつあるこの時期、
ある生徒の授業選択に関するトラブルシュートを終えて、
お母さんと雑談をしていると、彼女が興味深いお話をしてくれました。
「斉藤さん、あの子が留学して私はとっても良かったと思っています」
―そうですか、寂しくないですか
「いいえ」
―ほとんどのお母さんが、留学には総論賛成でも、わが子を「手放せない」という気持ちになるそうです。
「私は違います。学校(ボーディングスクール)では、あの子にご飯をつくってくれて、勉強を教えてくれて、躾もしてくれて、そしてなにより、叱ってくれます。これがどれだけ大変か、私にはわかります。」
―叱るということは、実はとても勇気と愛のいることですね。
「ほんと、そう思います。学校が叱ってくれる。とても感謝しています。(全校集会で)校長先生が、飛行機(軍用機)が飛んでゆくのをさして、『君たちはしっかり勉強しなさい。勉強しない生徒は、(あの飛行機の行き先の)軍隊に行って、国と人々のために奉仕しなさい』とにこにこしながら言ったそうです。」
―衝撃的発言ですね。受け取り方によっては誤解を招きかねない。
「そうですけど、うち子、嫌がってません。むしろ、はっきりしているから、いいんじゃないかと思います。あの子、日本の学校で本気で叱られたことも、先生とやりあったこともなかったと思います」
―叱る、大切なことです、信念がないと叱ったあとが問題になります。子どもたちは(人の見抜く目が)鋭いですから。
「私たちのかわりに子どもを育ててくれる、私はたいへんなことだと思います。学校に感謝しています」
私も叱ることの難しさをいつも痛感します。
叱るほうも、叱られるほうも、これに対するエネルギー量は膨大だからです。
私は、できればそのことにとらわれずに、またその必要がないように、
子どもたちには、異文化の中でたくましくなってほしいと思っています。