お母さんの留学経験
私がお世話する東京のある私立高校の1年間留学3名の
お母さんはすべて留学経験のある人たちでした。
自らの留学経験をもとに、わが子には異文化を体験したいという
想いから、留学制度のある高校へわが子を入学させたとのことでした。
私よりも一回りくらい若い人たちですが、それぞれの留学体験が、
次世代に伝わっていると感じます。
3人のお母さんとは個別に話したのですが、共通点があります。
みな、英語力の向上ということよりも、わが子に1年間で
期待することは、自立の精神ということです。
留学経験のあるお母さん方ゆえの意見であると思います。
実際に、英語力の向上という点だけを考えれば、留学は必要ないでしょう。
この読解力を中心とした学習は、日本の英語教育の得意とするところです。
しかし、この力は受験という一つの山を越えると急激に衰えます。
そして、次に就職に必要な英語力、TOEICの学習が始まります。
就職して、英語を使わなくなるとTOEIC力も衰えます。
留学経験をしたお母さんの言いたいことは、英語とはコミュニケーションの
道具であり、その主体は自分であり、自分がどう生きるか、
いわばたくましく生きるために海外で学んでほしいということだと思います。
「これから渡航までの間、どんな勉強をさせたらよいでしょう」という
お母さんからの質問に、私は
―読み書きの基本は私が教えますから、話すことについてはお母さんが教えると言うのはどうでしょうか・・・。
「それは、無理です」
―そうですね。私も自分の息子たちに英語をうまく教えることはできませんでした。業を煮やした私は、国際電話で3カ月ほど、週に3-4回、1時程度、英語を教えるという「親ばか」をしましたが、これは親の満足ということを、いま息子が社会人になって初めて解りました。
「それはすごいですね」
―親とはそうゆう宿命なんだと思います。
「解ります」
―親子は特別です。どうしても、お互いにわがままを通したくなる。他人であれば、気遣いとかが先に来るのですが・・・。
「私はこの子に1年の留学で望むのは『自立』です。」
―はい、それはすばらしいことだと思います。それを果たすために、今から準備しましょう。では、読み書きの基本、使える文法をこれから3ヶ月間、やります。
教わる本人たちは、そこで苦い顔をするわけですが、なにせ若干15歳です。
精神は柔軟であり、ゴールがきまれば、まっしぐらに進んでゆける年の頃です。
留学先では、回り道、つまづき、中途休み、それも自然でしょう。
私はむしろ、彼らにどんどん失敗してほしいと思います。
そして、一回ごとに、めそめそする時間を減らしていってもらいたい。
最後には、失敗からこそ学んでほしいし、チャレンジはやめないでもらいたい。
守りの姿勢では、これからの日本はやってゆけなくなると思います。
彼らとの文法の勉強、私が帰国したら始めようと思っています。