日曜コラム ある小学生の剣道稽古
私の通う剣道の道場にマサト君というユニークな小学生剣士がいます。
彼のお祖父さんは、自宅にミニ道場を作るほどの剣道好きです。
叔父さんとその息子、ケンタ君に連れられて、マサト君が剣道を始めたのは、
2年ほど前、彼が小学校に入学するころでした。
マサト君の剣道初年度は、半年以上が基本稽古で、面をつけずに
竹刀の素振り、足運び、掛け声など単調な動作の繰り返しです。
この段階で、まず50%の子どもたちが剣道を断念します。
人懐っこくて、好奇心旺盛のマサト君は、館長先生に叱られっぱなしです。
「マサト、なにしてんだ、構えろ」
「マサト、話を聞きなさい」
一人っ子のマサト君にとって、いつもと違う社会が道場にはあります。
剣道では、左足が右足の前に出てはいけません。
いつもスキップ状態で動作をしますが、マサト君は普通に歩む、いわゆる
「歩み足」のくせがなかなかとれず、「マサト、歩むな」と先生から
怒鳴られます。面を打つ時も、撞木足、(左の軸足が逆ハの字状態)に
なってしまいます。剣道では、左右の足は、まっすく前を向いていないと、
打つ時のパワーロスと、打った後の左足のひきつけが遅れるため、
この撞木足(釣鐘を打つ時の足の状態)は初心者稽古の時、
やかましいほどに注意されます。
多くの子どもが、この矯正について行けません。また、
親も「そんなに厭ならしかたがないね・・・」と最近はさっぱりしたものです。
余談ですが、私の息子たちが剣道を始めた時もマサト君と同じでした。
単調な稽古と朝起きが厭で、私はぐずっている長男を力ずくで剣道稽古に
連れて行ったことがあります。
めそめそする息子の手をぐいと引き、なにも話さずに体育館に行きました。
力ずくで息子たちにものごとを強要したのは、私の記憶ではこの時だけですが、
家内は何というか疑問です。
マサト君は、お祖父さんの剣道好き、また、40歳前半で六段の精鋭の叔父さんの
熱心さと優しさもあり、館長先生に怒鳴られることにも徐々に慣れていきました。
1年ほどが経ち、面付けを許され、実践的な稽古がスタートしました。
「歩むな」、「剣先が高い」、「左手が遊んでる」、「声がない」などなど、
先生の注意事項は数倍に増えました。
「マサトもこれで終わるかな・・・」、多くの子どもたちの剣道稽古の実態を
見てきた私は、少しばかりしょぼんとした気持ちになりました。
数週間ほど、日曜日の稽古でマサト君の姿がありません。
「やはり、だめかな・・・」
しかし、マサト君は叔父さん、ケンタ君とやってきました。
そして、いつも通り、先生におこられながら、怒鳴られながら、稽古をしています。
つづく