一番美味なるもの
日本の夏に南半球に出張し帰国すると、むせ返るような暑さと
成田空港から都心に向かう電車から見られる草木の猛々しいほどの
伸びっぷりに、日本に「帰った」ことを実感します。
誰でも、帰国直後の楽しみといったら、「食事」ではないでしょうか。
40代までは寿司や丼物が、帰国後最初の食事の定番だったのですが、
50代からその傾向はなくなりました。
10時間以上、飛行機に乗っているので、家で食べられれば、
何でもOKというのが偽らざる気持ちです。
「安心」が料理をもっとも美味しくさせると思います。
西洋のことわざに、「空腹は最大のソース」というのがあります。
私もそのように思います。空腹ばかりではありません。
ゴール直後のマラソンランナーにとって、喉の渇きをうるおす水は、
水道の水であっても、アルプスのふもとの湧水であっても、
同等の価値があると思います。
年齢とともに食事の量が自然に減ってくると、質も大切ですが、
その場の雰囲気と自分の気持ちが質と同等に大切な気がします。
夏休みも終盤にさしかかり、NZへの出張前に
ある健啖家のお父さんのご家族に招かれて夕食をご馳走になりました。
夫婦でやられている小さな和食のお店ですが、
豆腐、アユの塩焼き、煮物などがとても美味しいのです。
お父さん曰く、
「フランス、イタリア、スペインなどいろいろな国で店に行ったけど、日本が一番だね。フランス料理で有名な店など、その店のつくりは、そりゃすごいし、凝っているけど、料理はたいしたことないよ。イタリアも有名店だからうまいわけじゃない。そこらの小さな店でも、イタリア料理はうまいねえ。アメリカはダメだね。」
―この、(日本の)お店もとても美味しいですね。
「食べ物屋さんは、この規模でやるのが一番効率がいいんだよ。仕入れ、料理、接待にも目が行き届いて、いいもの出せるわけだ。ここから大きくなる時に、みなつまずく」
―・・・・。
さすが、大きな会社のリーダーですね。私はこのお父さんの視点が
大変勉強になりました。自らの力で、ゼロから会社をスタートさせて、
上場を果した方の意見には、とても納得します。
今、テレビではグルメ番組がたくさん見られます。
最高級の食材を使い、最高の腕を持った人や、その道のプロが
作り上げる料理に有名人たちが舌鼓を打つものや、
きき味の天才たちが、微妙な味やその特性を評価するものなど、
テレビを見る側の精神的ニーズをいろいろと満たしてくれます。
しかし、美味しさの原点に食べられることへの幸せと、
活動できることへの感謝があると思います。
幸か不幸か私は味に対しては通ではありません。
そして、私がまだ10代のころ、テレビのコマーシャルで
「料理は愛情」といった役者さんがいました。
今、その意味をしみじみかみしめています。