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留学物語-父は東大ぼくはニュージーランドその9 父からの手紙

(その8 6月11日掲載)
出国するときに、父から手紙を渡された。生まれて初めての父からの手紙だった。飛行機の中で読めと父は言った。ニュージーランド航空98便、オークランド行きが離陸して間もなく、ぼくは父からの手紙を読み始めた。
Tへ
留学が決まってあっという間に渡航の日がきた。お前が海外で経験した学校と日本の学校とはとても違うだろうから、日本での日々はお前にとって不本意であったと思う。お前たちと向き合って、人生のことを話すことは少なかった。話さない理由はないのだが、生活のなかではすれ違いばかりだった。ゆっくり人生について語ることは思った以上にその場をつくることが難しいものだ。しかし、それが必要な場面や状況はたくさんあった。お前が旅立つ今、父さんは改めてお前に私の気持ちを伝えたい。
父さんの仕事の都合でいろいろな国を転々とし、家族には苦労をかけたと思っている。行く先々でお前たちにはなるべく世界の多くを見せようと考えた。母さんもお前たちもよくついてきてくれた。私は家族と過ごす時間が何より大切だと思っていたし、幸せだった。
普通の家族のように日本で学校に行き教育を受け、生活をすることができなかった。お前たちが日本人でありながら日本の学校という社会に適応することに悩み、自らを責めたり悩んだりすることが私には辛い。本来ならお前たちが悩んだときにそれを解決するのが親としての役割と思うが、父さんは大切な時期に家族と一緒にいてやれないことがたくさんあった。父さんの選んだ仕事がそうさせた。お前たちにすまないと思っている。そして、父さん自身もお前たちと同じように悩み、葛藤した。
父さんと母さんは、お前のためと思い日本での高校生活を選択したが、お前にその選択は合わなかった。お前はこれから私たちが行ったことのない国へ留学する。そこで新たな自分を見つけ、自分自身で立ち上がり、自分の道を歩いてほしいと思っている。私の時代には留学は特別で、留学生など身近に一人もいなかった。私は自分に父の生き方に反対し、その反動で猛勉強して東大に入った、そして就職した。会社に尽くすことが当然であり、滅私奉公して無我夢中で働いた。その分、どれだけ家庭を顧みたろうか。
留学したからといって全てが上手くいくわけではない。お前の行く道は険しい。人生、すべてが平坦な道ということはない。転んでも自分で立ち上がる強さを身に付けてほしい。どんなことがあっても自分の信じた道を歩き、妥協せず、自分の道をまっとうしてほしい。自分の力ではどうにもならない壁に当たった時には、父さんたちはどんなことがあってもお前を支える。私は家族を大切にする。
                                   父より
ぼくは父の沈黙の底に沈殿した濃厚な感情に始めて触れた。父と母の目を見て「ありがとう、必ず何か掴んでくるよ。」と直接伝えたいと思った時、飛行機ははるか雲の上を飛んでいた。機内で涙が止まらなかった。自分のわがままさ、勝手さがわかっていたがゆえに、父のぼくに対する想いに体が震えた。ただただ涙が止まらなかった。周囲の目は気になったが気持ちは抑えようがなかった。どこからこれほど涙がでるのか不思議だった。  
つづく

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