第1章-1 「教育は世界から選ぶ」
アメリカのボーディングスクールについて述べる前に、すこし私たちをとりまく国日本やアジアの国々の実情について述べたいと思います。
私たちの国日本は第2次大戦後、大変な忍耐と努力そしてもちまえのまじめさと勤勉さを最大限に発揮して先進国の仲間入りをしました。現在世界でも有数の経済大国であることは間違えありません。その反面、ほとんどの先進国がそうであるように、経済的豊かさの影に精神の貧しさから来る家族崩壊や学校崩壊を抱えることになりました。残念なことですが、科学や経済の発展で得られた繁栄ではカバーすることの出来ない人のこころの問題が毎日のようにニュースとなり私たちのこころをさらに寂しくします。
心の問題を解決するために教育はきわめて重要です。
なぜならば、すべての親が子供に望むことは自立することだからです。子供たちは教育を通じて自分を見出し成長しそして自分の参加する社会を広げてゆきます。自立が早ければ早いほど、自分の属する社会が広がり成熟した大人となります。成熟もたくさんの意味があると思いますが、一言で親の子供に対する思いを言えば、「自分で生きてゆけ」ということでしょう。私は日本の教育が世界でも誇れるものであると確信していますが、日進月歩で変わる社会にあって日本の教育システムが変革を余儀なくされ多くのトラブルを抱えているのも事実です。これは日本だけの問題ではありません。先進国の教育は例外なく多様化する家庭のあり方、そして社会のトラブルへの対応に追われ試行錯誤を繰り返しています。
その中で、世界の中でも成長著しいアジアに目を向けてみたいと思います。教育コンサルタントとしてここ10年間、アメリカのボーディングスクールを何度となく訪問して感じるのは、韓国や中国からの学生の激増です。入試担当者に留学生の数を尋ねると、日本からの学生は5人以下でも韓国からの学生数が15人を上回るボーディングスクールがたくさんあるのです。面接を待つ間、学校のロビーや待合室で必ず会うのか韓国からの家族です。ほとんどの家族が英語を理解し話します。親の職業はドクターや企業オーナー、投資家など高学歴で社会的・経済的に成功をおさめた人々です。彼らの子供たちも10代なかばにして普通に英語を話します。彼らにボーディングスクールへの志望の動機を聞くと、ほとんどがアメリカの大学をめざすためと答えます。
中国はあまりの大国なので当てはまらないかもしれませんがこれからの日本や韓国では、先進国の一般傾向である労働人口の減少により国内の市場も減少します。どこの国でも企業は生き残りをかけて安い労働力を国内外に求めて行きます。そのなかで韓国、日本が生き残ってゆくためには世界の市場にいままでより以上に積極的に参加してその競争力を維持しなければなりません。言うまでもなく日本や韓国の多くの企業が世界市場を相手にし、実績をあげていますが、それがいつまでどのような形で続くのか予測はきわめて困難でしょう。
経済・情報社会がボーダレスになるなかで、私たちは、日本がどうあるべきかを考えます。そして、その答えは世界を知りその中で日本を考えることにあります。韓国の知識層がその子弟をアメリカのボーディングスクールで教育を受けさせるのは、これからの世界の未来予測の構図の中で、アメリカのボーディングスクールから大学へ行くことがベストな中等・高等教育の場であると彼らが判断しているからです。
これからの日本の企業が求め、また日本の社会に求められるのは世界を相手に即戦力となる人材です。
与えられた課題に対し自ら情報を収集し、結論を導き出せる人材です。企業に入って教育しなおすといった余裕はもうあり得ないでしょう。自立が先か、知識が先か親がはっきりとした方針を持たないといけません。そもそも、子供たちの中には固定された価値観などはないからです。その個性や特性をどこで最大に引き出してもらえるのか、その答えのひとつの形がボーディングスクールの教育システムにあると私は確信しています。