英語力と留学-素朴な疑問への解答
「日本にいても、勉強が追い付かず満足な成績が取れないのに、留学してわからない英語で授業を受けて、どのようにして勉強についていけるというのでしょう」といった質問を、留学を希望する生徒のお父さん、お母さんから良くいただきます。
この質問は無理もないことです。英語力のほとんどない10歳から15歳くらいの留学生がどのようにして英語力を獲得していくのか、正直なところ私もコンサルタントを始めた80年代には不思議に思っていました。
成人になってから留学をした人にとっては、英語力ゼロの状態での留学生活が想像だにできないのではないかと思います。
日本式に言えば、英語会話や英語読解を短期集中で行うことで、基礎を築き、その知識をもとにして、徐々に正規クラスへの移行を図るということになるのでしょうが、小学校の高学年、そして中学、高校ボーディングスクールには、英会話の授業や英語読解のための文法学習に特化した留学生だけの特別クラスがどこの学校にもあるわけではありません。
ジュニアボーディングスクールにおいては、寮生受け入れが5年生より始まるところもありますが、ESLクラスでは、日本のような徹底した英文法のクラスはないのが現実です。
15歳以下の若年齢の留学においては特にですが、日本式の徹底した暗記学習方式はありません。また、いわゆる「英語シャワーをあびる」ということも適切な表現ではないと思います。
考える、知恵を絞る、(生活を)工夫するなど、いわば自分への挑戦、未知の世界に踏み込む決断と勇気といった精神要素が彼らの留学を支えています。学びの場を教室や机上に限定するのではなく、新たな環境への適応することを考えるすべてのプロセスが彼らにとっての学びです。
英文法を知らなくても、長文読解に取り組んだことが無くても、若き留学生たちは確実に英語を使うことを学びます。それは彼らが新たな環境で生き残っていくために必要な最低限のことだからです。
若年層留学においては、留学生たちはテストの結果だけで、評価されることはありません。それは、日本の初等、中等教育機関に留学している生徒たちにも言えることではないかと思います。はるばる海を越えて学びに来ている若者をテストの点数だけで評価することを「教育」と考える先生はおそらくいないでしょう。
教育は、人が生きるためにより役に立ち、より親しみ深く、生涯にわたって必要とされるべきです。
英語というコミュニケーションの道具が使えないからと言って、留学の機会を消してしまうことは、泳げないからといって、プールや海など、水に接する機会を消滅させてしまうことと同じではないでしょうか。
本来、人は生きる力を持っている存在です。10代で留学のチャンスがあるならば、それをどう生かすかでその後の人生の展開も大きく変化をするはずです。